VS『SLOT魔法少女まどか☆マギカ２』その①
電車を乗り継いで一時間弱。友人であるエス君と共に、初めての土地へと馳せ参じた。
エス君がどこからともなく持ってきた、かなり狙い目の店舗である都内某店。スロットの設置が１００台ちょっとという、地域密着型とも言える店舗である。エス君情報によると「３のつく日に、末尾３の台が鉄板」とのこと。そんな上手い話があるものだろうか。疑い半分、期待半分で目的の店舗へと向かう。
さて、みんなお楽しみ朝の抽選である。並びは衝撃の８人だった。私の心がザワツく。
「おい。エス君。これ大丈夫？」
私は完全にテンパっていた。日付と末尾に法則のある旧イベント日と聞いていたのだが……。ザワザワする。相当な修行を積み重ね、常に沈着冷静な心を拾得した修行僧でも、さすがにザワザワする場面だ。
「大丈夫、大丈夫」エス君は自信満々な様子で頷く。「ライバルが少ないでしょ？ これが狙い目なのよ」
エス君の胡散臭い表情は一旦置いておくとして、今はとにかく抽選だ。こうなってしまった以上、もう覚悟を決めるしかない。私の決心はついた。こうなったときの私は、相当な鍛錬を積んだ修行僧に匹敵する精神的強さを発揮するのだ。
８人とはいえ、この人数が皆末尾３を狙ってくるとすれば、あまり大きな店舗ではないが故、少々心配ではある。せめて４番以内を引きたい。
私、７番。
エス君、８番。
はい、残念。この結果に、私はかなりムカついた。私の中にいる修行僧は、すでにポテトチップを食べながら横になっている。わざわざ早起きをして来たというのに、何を二人そろってケツの番号を引いているのか。
なにはともあれ、いざ開店である。眉間に皺を寄せたまま、私は店舗内へ足を踏み入れた。
前の人が向かった先は、意外にもバラケていた。ジャグラーコーナーに向かった人が３人。ふむ、朝からジャグラーを狙えるようなお店なのかしら？ そんなことを考えながら、まどマギ２の末尾３を確保。
まどマギ２が好きな私は、ホッと胸をなでおろした。取れて良かった。そんな私の後ろからしたり顔で歩いてきたエス君は、なんとバジリスク絆の末尾３を押さえていた。
え？ 絆とれたの？
私はより一層不安になった。エス君の情報が正しいとすれば、まず埋まるべきは絆の末尾３だと勝手に考えていたからである。不安だ。実に不安である。
私はとりあえず店舗内をフラフラしてみることにした。ふむ、確かに、末尾３の台が埋まっている。並んでいたほぼ全員が、末尾３の台を確保していた。
「ああ、なんだぁ。ガチじゃん。オッケーオッケー」
この結果に、微かに期待が膨らむ。不安と期待が入り交じり、代わる代わる襲いかかる。非常に不安定で忙しい。
とりあえずは狙い台に座れたのだから、まあ良いとしよう。私は缶ジュースを購入し、キリッとした表情で台へと戻った。
肝心の挙動はどうだろうか。私のまどマギ２は、とりあえず朝の高確移行が確認できた。変更は濃厚である。まあ、とりあえずは安心だ。よかったよかった。
さて、エス君の絆はどうだろう？ まどマギ２とは背中合わせの列なので、振り返ればエス君の様子がよく分かる。ん。ＢＣを引いてる。弦之介で消化中。
え、撃破？ 早くね？ ６回？？
一瞬何が起きたか分からなかった。見ている限りではレア役は引いていなかった。もしベルでの撃破だとしたら、６ベルは４・５・６確定だった気がする。
「あわわわわわ……」
私は思わず口元を押さえながら呟いた。展開が早すぎて処理が追いつかない。まさか、こんなにも簡単に……。
私の悶絶する声が聞こえたのか、エス君が振り返る。彼は過去１０年でもっとも良い表情をしていた。キメ顔で私に親指を立て、私の方へと向かってくる。
「ツモった」エス君は私の耳元に顔を寄せ、小声で呟く。「つまり、こういうことだよ」
「巻物引いたんでしょう？」
なぜかそうであってほしいという気持ちが強く芽生えていた私の口調はやや強くなっていた気がする。そんな熱のこもった私の感情とは裏腹に、ニタニタのエス君は、より一層ニタニタを増して言った。
「何も引いてない。６ベルだよ」
そう言い残し、ニタニタは絆へと踵を返した。なんということか。あのニタニタ君がすでに高設定濃厚の台をつかんでいる。いやしかし、これによって私の台もかなり期待ができる状況になった。今のところ、弱チェリーが結構落ちている。悪くない挙動だ。これは、もしかすると、もしかすると！！ 密かにエス君と共に目指していた合わせ万枚に到達出来るかもしれない。
そんな期待に胸を膨らませながら、私は朝イチ６００ゲームでリセット天井を引いた。
その②へ続く。
