ゼロゲームやめが出来るまで

パチスロが好きなんですよ

暴走する私:その①

都内、某日。私は友人であるエス君と共に、車でとある店舗へと向かっていた。それなりに有名な店で、雑誌系の取材や映像系の収録もそこそこの頻度で行っている。旧イベント日には、それはもうかなりの賑わいを見せるらしく、出玉的にも大盤振る舞いだとか。

 

そんな話を聞いてしまっては、一度くらいはそんな恩恵にあやかりたいと思ってしまう。私の朝のテンションは、土俵入りする直前の高見盛くらいに上がっていた。

 

そんなワクワクが止まらない私とは対照的に、助手席に座るエス君は、なぜか難しい顔をしていた。煙草をふかしながら、「凱旋……絆……凱旋……? 絆……」と、花占いでもしているかのごとくブツブツ言っている。
 

そんなブツブツやっている場合ではない。私は気合いが入っているのだ。土俵入りする直前の高見盛関が、そんなブツブツ言っているところを私は見たことがない。「沖ドキ!! まどマギ2!! 沖ドキ!!」私はエス君に向かってきっぱり言ってやった。

 

 

私は抽選が良ければ、沖ドキを打とうと思っていた。この店舗は沖ドキが強い、と聞いたことがあったのだ。もしくは、まどマギ。私はまどマギ2が好きだ。面白くて仕方がない。面白いから、私はいつもまどマギ2の高設定が打ちたくなる。

パチスロの設置台数が400台ほどのその店舗は、特定日になると500人を越える並びになるらしい。抽選に漏れる可能性はあるが、まあ大丈夫だろう。
 

そんな朝の抽選には、600人を余裕で超える人が参加することとなった。若干焦る熊井。エス君は相変わらず「絆……凱旋……? 沖ド…絆……?」とブツブツ言っていた。
 

とりあえず、パチスロが打てればいい。そんな具合に目標を下方修正し、抽選を受ける。私の前の人が「520」番を引いた。

あ、これは大丈夫。こうなった場合、次の人、つまり俺は多少早い番号を引けるはず。私は人差し指に気を溜め、そっと抽選ボタンを押した。

 

「468」

 

本当に多少やんけ。絶望である。
 

『ウソつけこのタコ! ふざけるなよコラ!! 何故二回連続で重い番号を抽選するんだタココラァ!!』

私は心の中で叫んでいた。顔は完全に長州力に寄っていた可能性がある。
 

その抽選を後ろで見ていたエス君が、ほくそ笑んでいるのを、私は見逃さなかった。彼は私が引いたすぐ後、二回連続で重い番号が来ている抽選台に颯爽と向かい、余裕の表情でボタンを押した。

 

「479」
 

エス君の顔が完全に長州さんになっていた。私とエス君、もといダブル長州力は、陰りのある表情を浮かべながら、重い足付きで再整列へと向かった。

 

こうなってくると、もはやパチスロが打てるかどうか自体が危うい。メイン機種はおろか、バラエティーすら満席になるだろう。5スロ、ジャグラーならあるいは……。
 

しかし、沖ドキ、まどマギ2を打ちたいと考えていた私は、もう完全にそのレバーに照準を合わせており、どうしてもジャグラーを打とうとは思えなかった。カレーを食べようとしていたのに、突然刺身が出てきたらちょっと困惑する心理と同じ現象である(全然違う気もする)。
 

 

入場すると、やはり空き台は見あたらなかった。とりあえず店内をフラフラしてみる。沖ドキは早い当たりの台が多く、全リセは間違いなさそうだ。かといって、この稼働で朝2を狙うことは不可能に近い。

「あーあ。もうやんなっちゃったなぁ」

私はふてくされ気味にジャグラーコーナーに行く。空き台は無い。まあ、そうだよね。フラフラとさまようように島を抜けようとした時、ゴーゴージャグラーのカド3に、長州さんによく似た表情の男性を発見した。

エス君である。彼は抽選番号を見て、一目散にジャグラーコーナーに向かった。その切り替えがこうをそうし、見事数ないスロットに腰を据えることに成功したのだ。しかし、表情は未だに長州さん。やや戸惑いを隠せないことは致し方ない。あれだけブツブツと高純増機の名前をつぶやいていたのだから。

 

私はトボトボとパチンココーナーに向かった。こうなってしまっては、私の目標は決まっている。天下一閃だ。
 

天下一閃を探す熊井。お、あったあった。こいつでとりあえずは様子見かな(様子を見るような台ではないだろう)。カドの天下一閃を確保しようとした私は、視界にちらりと写り込んだ冴え冴えしい筐体にその動きを止めた。

 

f:id:sishamo11:20180514164830j:plain



 

GOGOピラミッド……?
 

なんて神々しい筐体。芸術作品かよこれ。

こんなにもパチンコ台に心を奪われたのは、大好きな『ワニざんす』以来ではなかろうか。どんな台かもわからなかったが、私は吸い寄せられるようにその台を確保していた。いざ打ち始めてみると、まあまあ面白い。ゲーム性は天下一閃に近いので、嫌いじゃない。しかし、どうしても釘がきつい。オリバー・カーンを彷彿させるくらいの鉄壁である。
 

私はそんな鉄壁の前に為すすべが無く、なんとか一度大当たりを引いただけで無念の離脱となった。投資は16本。出玉も飲まれてしまう。神々しいあの台には、いつか必ずリベンジしてやろうと心に誓った。

 

GOGOピラミッドとの戦いに破れた私は、しばらく何もできなかった。満員御礼状態のスロットコーナーを眺めながら煙草を吸い、ウォークマンで『バンビーナ』を聞くくらいしかやることがなかったのである。
 

そんな私の視界に、一抹の希望が映る。荷物をまとめ、立ち上がるオッサン。ん、やめるのかしら? 私はすかさずその台に近づく。何かで確保している気配はない。ということは、空き台だ。その台は、『北斗修羅』だった。
 

うーん、修羅かぁ……。

私は確保してからちょっと迷った。修羅は苦手なのだ。どうしても好きになれない。一度だけ高設定らしき修羅を打ったことがあったが、その時ですらどうもイマイチハマらなかった。まあ、出るときは出るんだけれど……。しかも、この時間に空き台になっている時点で、相当あやしいと思う。いいのだろうか。うーむ、悩む。
 

しかし、この状態で贅沢は言っていられない。わざわざ早起きして来たのに、GOGOピラミッドしか打たずに帰るなんてことはあってはならない。
 

 

私は意を決し、北斗修羅の下皿へ煙草を放り込んだ。

 

 

その②へ続く…